保険業界を調べていくと、保険会社には相互会社と株式会社という2つの会社形態があることに気づきます。
ほかの業界では出会わない「相互会社」は、実は保険会社だけに認められた会社形態です。「どうして保険会社には相互会社と株式会社があるんだろう?」と疑問を抱く方もおられるかもしれません。
そこで今回は相互会社と一般的な会社との違いや代表的な企業についてご紹介します。
- ・相互会社は保険会社だけが認められた会社形態
- ・相互会社と一般的な会社の違い
- ├資本
- ├構成員
- └意思決定機関
- ・代表的な相互会社
- ・最後に
相互会社は保険会社だけが認められた会社形態
相互会社は「保険業法」に基づき、保険会社だけに認められた会社形態です。利益を出すことを目指さない非営利の社団法人となっています。
保険というシステムは大勢の人がお金を出し合って蓄えておき、災害や事故などに巻き込まれた人に必要なお金を保険金として分配する「相互扶助」の精神に基づいています。万が一に備えてお金を蓄えておくのが目的で、利益を追求する組織ではないため非営利なのです。なお、お金(保険料)を出す人を保険契約者といいます。
お金を出す保険契約者がいなければ、保険商品を作ることはできませんし、相互会社も維持できません。そのため、相互会社は全ての保険契約者を「社員」として扱います。顧客と社員が一致しているのが相互会社の特徴です。
相互会社と一般的な会社の違い
日本における法人の約9割は株式会社が占めており、株式会社の形態を取る保険会社も少なくありません。ここからは相互会社と保険会社との違いを解説していきます。
資本
事業を行っていく上で元手となるのが「資本」です。相互会社の資本は「基金」と呼ばれ、機関投資家や企業などの基金拠出者に出してもらいます。この基金は一定期間で償却(返済)する必要があります。
一方、株式会社の株主が出資した「資本金」が資本となります。自社の株式を発行すれば調達できるため、資金調達の面では株式会社の方が有利といえます。
構成員
相互会社の構成員は保険契約者です。そして先ほどもお話した通り、保険契約者は「社員」となり、会社の運営に参加する権利を得られます。
一方、株式会社の構成員は株主です。株主は株券を購入して会社に出資した人を指し、会社の運営について出資額に応じた権利を得られます。
意思決定機関
本来であれば相互会社の意思決定機関は「社員総会」です。しかし、数百万人から数千万人もの社員が集まり話し合うことは現実的ではありません。実際には社員の代表者となる「総代」を選び、その総代で議論する「総代会」が意思決定機関として機能しています。
一方、株式会社では株主が集まり、経営について話し合う「株主総会」が意思決定機関となっています。相互会社の社員総会や総代会では保険契約者の意向が反映されますが、株主総会では保険契約者ではない株主の意向も汲み取る必要があり、保険契約者の望む経営が行われないリスクがあります。
代表的な相互会社
2022年3月時点で、日本に存在する相互会社は以下の5つです。
■日本生命保険相互会社
大阪市中央区に本社を置く日本最大手の生命保険会社です。日本生命は相互会社という形態を選ぶ理由について、“お客様の利益を第一に考え”た結果だとしています。
毎年開催される「ニッセイ懇話会」で社員から得られた意見・要望を「評議員会」や「総代会」へ報告し、経営に反映できるように努めています。なお、評議員会とは社員や学識経験者の中から選ばれ、諮問(意見や見解を求められること)を受けた事項や経営上の重要事項についての意見を述べるとともに、社員からの経営に関する意見・要望を審議する役割を担う機関です。
■明治安田生命保険相互会社
東京都千代田区に本社を置く生命保険会社です。明治安田生命のHPを見ると、“当社は「相互会社」形態で運営されている「みなさまの会社」です”と記載されています。また、日本生命と同じく「お客様懇談会」で社員の意見や要望を聴き取り、「評議員会」や「総代会」で話し合う体制が取られています。
■住友生命保険相互会社
大阪市中央区に本社を置く生命保険会社です。住友生命でも「総代会」だけでなく、「ご契約者懇談会」や「審議員会」を設け、社員からの意見・要望を反映できるよう努めています。
■富国生命保険相互会社
富国生命保険相互会社は東京都千代田区に本社がありますが、千葉ニュータウンにも一部の本社機能が置かれています。富国生命でも「総代会」だけでなく「ご契約者懇談会」や「評議員会」が開催されています。
■朝日生命保険相互会社
東京都新宿区に本社を置く生命保険会社です。朝日生命でも「総代会」に加え、「ご契約者懇談会」「評議員会」が開催されています。
最後に
相互会社は保険契約者を第一に考えた経営が実現できる反面、資金調達でのデメリットがあります。また、外資系の保険会社の参入などにより、保険商品の低価格化競争が激しくなった結果、多くの保険会社が生き残るために株式会社という会社形態へと移行しました。
そのような中でも長い歴史を持つ5つの生命保険会社は相互会社としての経営を続けています。保険業界を志望しているなら、この5つの企業の動向には常にアンテナを張っておく必要があるでしょう。
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