農業の課題をIT技術で解決していこうと始まった「食べチョク」というサービスが今、大きな注目を浴びています。運営するのは、株式会社ビビッドガーデン。代表の秋元里奈さんは、新卒で入社したDeNAを退職し、昨年創業しました。なぜ、農業とITをかけ合わせたのか。インターンシップガイド編集担当が、その想いと、創業のきっかけを伺いました。
文化祭でのリーダー経験が、大きな転機に。
―慶應義塾大学時代、今の秋元さんに影響を与えたエピソードを教えてください。
文化祭でのリーダー経験ですね。大学入学当初は、あまり前に出たくないタイプで、自分の意思というよりは、友人が入るからという理由で文化祭の実行委員会に入りました。ところが周りの同期が委員会に来なくなってしまい、リーダーにならざるを得ない状況に陥ってしまいました。少し抵抗はあったんですが、入ったからには最後までという責任感はずっとあったので、「やらなきゃいけないんだったら、とにかくやってみよう」と思って動いてみました。
元々、やり始めたらのめり込むところがあって、なんでも意識的に好きになろうとするんですね。だから、やろうと決めた企画の内容を徹底的に調べたり、共有していくことでだんだん愛着が湧いて。気づいたら好きになっているんです。自分の裁量で決められたりとか、みんなで一体となって作り上げるというのが、今までで一番達成感を得ることができて嬉しかったですね。
前に出たくなかった私ですが、自分から発信することで企画が出来上がっていく面白さを知る機会になり、就職にも影響を与えた経験だったと思います。
社会人3年目に振り返った「やりたいことは何か?」の問い
―新卒でDeNAに入社し、退職を決意するに至ったきっかけを教えてください。
大学卒業後について、当時これといってやりたいことがあったわけではなかったんです。それでも、「やりたいことを見つけたときに、できる力をつけよう」という想いがあり、最終的には創業者の南場さんの考えに魅かれてDeNAに入社しました。WEBサービスの企画、新規事業の立ち上げやマーケティングなどを経験させてもらい、本当に充実していました。入社3年という節目に周囲には転職する人も出てきて、自分自身も改めて振り返ることがあったんです。果たして、私にとって「やりたいことは、なんだろうか?」と。
―振り返る中で、秋元さんに影響を与えた出来事は何だったのでしょうか?
「やりたいこと」を求めて、起業した知人が運営する「ワークル」に参加したのが、契機になりましたね。そこは、仕事と家以外の3つ目の場所でやりたいことをやれる、いわゆるサークルの仕事版のような場所です。様々な人たちとの異業種交流を通して、農業も新しい動きはありつつも、IT化が進んでいなかったり、課題に対するソリューションがないという現実を改めて知ったんです。“農業”というキーワードが私の中に出てきて、「やりたいことが、見つかった」と思いました。
―なぜ、“農業”だったのでしょうか?
実家は農業を営んでいて、私自身も農地を持っているんですが、ずっと両親から「農家は儲からないから、絶対に後を継ぐな」と言われてきました。だから、ビジネスとして捉えることに意識は向いていませんでした。ところが、様々な人たちから農業の現実を聞いて、私だからこそなにかできるんじゃないか、実家を盛り上げ、農業を変えたいという思いになったんです。それでも、どうすることで、自分の考えを形にできるのか見えてこなかったんです。
―「やりたいこと」が明確になったけど、方法を悩んでいたんですね。
そうですね。ワークルで行われる月に一度の面談で「農業でなにかやりたい」と思っていることを知人に伝えたら「起業してみたら?」という一言を言われて。退職することに不安もあるし、起業はまだ自分にはできないという考えもあったりして、やらない理由をとにかく並べていました。すると「そのやらない理由は、どんどん増えてきっといつまで経ってもやらない。やったことがないことに、なぜやらない理由をつけるのか」と返されたんです。それを聞いて「確かにそうだな」と思いました。たった1時間話しただけで、ずっと躊躇していた起業しない理由が、一気になくなってしまったんです。
起業はもちろんリスクがあるけど、やりたいことが定まった今にやらないといつまで経ってもやらないと思ったら、もうそこで決めていましたね。今のタイミングなら、きっとやれることがあるという思いになりました。決めるとすぐ動きたくなっちゃうタイプなのですが、一応1週間じっくり考えて、それでも気持ちが変わらなかったので決心しました。
―退職を決意して、同僚の方たちの反応はどうでしたか?
辞めるということに対して、社内でどんな反応になるかと気になってはいましたが、みんな挑戦を応援してくれました。そのとき先輩から「死ななければいいから、がんばれ」という言葉をいただいたんです。これは、私が今でも悩んだ時に立ち返る言葉になっています。辞めることでかける迷惑もあったと思いますが、後押しをしてくれた当時の上司や同僚には本当に感謝しています。
作るひと、食べるひとが幸せに。 IT業界で培った経験で、農業の課題解決に導く「食べチョク」
―「食べチョク」とは?
オーガニック農作物を栽培している生産者から、お気に入りの農作物を「農家直送」で送ってもらえるサービスを提供しています。農家で収穫仕立ての新鮮な野菜が、最短で収穫当日に届きます。間に業者が入らないので、生産者と消費者が直接つながることができるんです。少量からでも販売できるので小規模農家さんでも収益をあげることができますし、消費者のみなさんにとっても、新鮮でおいしい野菜を手に入れることができます。
【食べチョク】https://www.tabechoku.com
―なぜ、「食べチョク」を始めようと思ったんですか?
これまで根本的な農家の課題として、儲からないというのがありました。農業では、小規模な農家は農地が小さく採れる量も少ないので、単価を上げなければならない。しかし小規模な農家は提供できる量が安定しないため、飲食店や小売店などで直接扱ってもらうことは難しいのです。結果として、多くの農家がいろんな中間業者を挟んで販売をしますが、そうなるとどうしても利益は少なくなってしまいます。だから、小規模な農家に直売の販路を作ることができたら課題点を解決することができる。自分のこれまでの経験も生かしてなにかできないか、というところから始まりました。
すでに、メルカリやフリルといったフリマアプリでも野菜は販売されています。総合マーケットの要素が強いので、どうしても比べたときに安いほうが選ばれたりする。なかなか伝えきれていない農家さんのストーリーを伝えられるような機能性があれば、手間暇をかけた野菜の良さを購入される方に伝えられると思ったんです。だから、オーガニック野菜にこだわりを持っている農家さんに場を提供したいと思ったのが最初ですね。いわゆる、有機野菜のメルカリを目指そうと。そこから「食べチョク」が生まれたんです。
―今後はどんなことにチャレンジをしようと考えていますか?
「食べチョク」に関して、現在100軒となった登録農家さんの数1,000軒を目指したいです。そのためにもサービスを利用していただく消費者を増やしていきたいので、農家さんの数を増やすより、消費者の方へのアプローチを強化していきたいです。また、飲食店や料理教室などで利用されるケースも増えてきたので、法人向けにも販路を拡大していきたいと考えています。
起業して1年。求めているのは、「やると言ったら、やりきる人」
―苦労や困難には、どのように向き合ってきたんでしょうか?
DeNA時代の先輩に言われた言葉を大切に、「挑戦して失敗しても死ぬわけじゃない。死ななければ何度でもやり直せるチャンスはある」というマインドの持ち方を意識していますね。私自身、割と保守的な人間で、リスクを考えてしまうんです。躊躇することもあるんですが、そういうときに「じゃあこれで死ぬのか」というような一度極端な考えをする癖をつけて、チャレンジしていくことを決めていっています。潰せるリスクはきっちり潰した上で、最後は思い切ってチャレンジする、というのが私のスタンスです。
―採用活動をされていますが、今、ビビッドガーデンとして課題はどこにあるでしょうか?
事業の課題はもちろんありますが、大きい課題は人材ですね。特にベンチャーともなると、そもそも事業がないところからスタートしているので、事業をゼロから創ることができる人というのは非常に重要なのですが、その点でのミスマッチが多く、課題だと感じています。私たちの想いやベンチャーで働くということを少しでも理解してもらった上で、ミスマッチがないように採用をしていきたいですね。
今募集しているインターンでは、サイトコンテンツ企画や農家さんへの営業、SNS運用などのマーケティングといったことをしていただくので、業務は多岐にわたります。今月からは今まで以上に採用に力を入れようとしています。
教育体制はまだまだ整っていないのが現状なので、ベンチャーマインドを持って自ら進めていけて、食や農業に興味がある方と一緒に仕事をしたいですね。ベンチャーということと、農業というのがなかなか相容れないところがあるので、興味を持っていただくのが難しかったり、ミスマッチが起きることもあるんです。そこが一番苦労してますし、これまでも一番苦労してきました。様々な業務をやっていただくので、“やると言ったら、やりきる人”を求めています。
―「インターンシップガイド」を利用して学生さんからの反応はどうですか?
想像以上に多数のエントリーがあり、反響の大きさに驚きました。インターンシップガイドには、全国さまざまな企業が掲載されているので、その中で多くの学生さんが当社の情報を見て、応募してくださったのをありがたいと思っています。
学生に伝えたい。一歩踏み出すこと、働くということ。
―学生にとって、秋元さんのように一歩踏み出すには、どんなことが大事でしょうか?
足を動かし続けること、やれると思ったことはすぐにやってみることだと思います。私もそうでしたが、足さえ動かしていれば、人生を変える出会いがあったりとか、成長できる環境に自分を押し上げていけると思いますし、人生の幅が広がっていくと思います。
私が起業したのは、大きい企業ではやりたいと思ったときに思い切りできないことがあるかもしれないという想いもあったからです。一方で大きい企業にいたからこそ学べたことも多いです。早く行動をしていけば、それだけ可能性が広がります。特に学生のうちは色がないので、どこの会社の人も平等に会って話を聞いてくれますし、そこは学生ならではの強みだと思います。今しかない学生の時を存分に活かして、いろんな人に会って、情報収集してほしいなと思います。
―ベンチャーで働くことについて、秋元さんの想いをお聞かせください。
ベンチャーに向いていないと思わず、まずはいろいろなベンチャーを見てほしいなと思っています。ベンチャー経営者もいろいろなタイプがいます。論理的な哲学者タイプや、直感的なカリスマタイプ。トーク上手な方や寡黙な方。飲むのが好きな人、全く飲まない人。ベンチャーにもそれぞれカラーがあるので、興味があればきっと、どこか自分に当てはまるところがあると思います。足を動かして、自分が積極的になれる場所を探していってほしいです。
ビビッドガーデン 代表者プロフィール
神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶應義塾大学理工学部を卒業した後、株式会社DeNAへ入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月に株式会社ビビッドガーデンを創業。
【株式会社ビビッドガーデン】https://vivid-garden.co.jp/
こぼれ話...
大学時代の文化祭イベントでは、どうせやるなら他大にない企画を推したいと「ジョジョ立ちコンテスト」に力を入れた秋元さん。ジョジョの奇妙な冒険というマンガのキャラクターのポージング完成度を競うものだそうで、企画が決まると、メンバー全員でマンガを読み込み、「ジョジョ合宿」と称して日光や京都でポージングの練習をしたり、やると決めたらとことん突き詰めたのだとか。最後は、ブランクが…と言いながらもカメラの前に立つと、見事なポージングを披露してくれました。
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